寄稿 田原総一朗氏
PROFILE
souichirou TAHARA
1934年滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業。岩波映画製作所、テレビ東京を経て、1977年フリーに。現在は、政治・経済等、活字と放送の両メディアにわたり精力的な評論活動を続けている。テレビ朝日系「朝まで生テレビ」、「サンデープロジェクト」に出演中。著書は「日本の官僚」「日本の戦争」「日本の政治〜田中角栄・角栄以後〜[講談社・新刊]」ほか多数。 |

”近江商人の歩いた後は草も生えない“
子供頃から何度もこの言葉を聞かされた。
もちろん近江商人に対する批判である。近江商人は徹底的に儲ける。そのことしか考えていない。人情も道理もないという意味なのだろう。
そんなことをいわれつけて育ったせいもあって、わたしは商売というものが嫌いだった。
実は、わたし自身商人の末裔なのである。
とにかく商売、金儲けと関係のある仕事には付きたくない。
そんな思いが強かったので、ジャーナリストという仕事を選んだのである。
だが、40歳を過ぎた頃から考え方が変わって来た。
いまでは、わが郷土の大先輩、近江商人を心から尊敬し、近江に、そして彦根の商家に生まれ、育ったことを誇りに感じている。
幼稚園に上がる前から”商ないとは飽きないこと“だと祖母によくいわれた。
”運・鈍・根“という言葉を聞かされた。
人に運、不運があるのではない。利口ぶらずに、小賢しくたちまわらず、バカになって、それこそ飽きずに、根気よく頑張っていれば、運はひらけてくる。もっといえば、運は開くその心をいうことなのだろう。
50代に入って、思い出してあらためて納得させられたのは、”三方得“という言葉だった。
子供のときから”商人は三方得でいかんとあかん“といわれながら、その意味がよくわからなかった。
その意味がしだいに理解できるようになって来て、いまや大哲学だと捉えている。
商人にとって、まず第一に考えるべきは、いかにお客様にトクをしていただくかということ。お客様のニーズにあった品物、あるいはサービスをいかに質をよくし、いかに安く提供できるかを考える。つまりお客様第一主義ということである。
そして、自分の商売が、いかに社会に、あるいはその地域に貢献しているか、いかに貢献出来 るかを考えること。つまり社会にとってトクになることを考えようということである。
そして三番目、一、二をやれば自分もトクになるということだ。
いま、日本のほとんどの企業の経営者たちがさかんに力説しているのが、この”三方得“なのである。
あらためてわが大先輩たちのエラさを認識させられている。
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